意義

 

あのな、オレな、報道写真ってあるじゃん。

そんで、戦場カメラマンて、いるじゃん。


オレ、報道写真て、こんな世の中にあっても「当事者に成り代わって第三者に伝える」つー存在意義がある、と思ってんのよ。でもな、その「当事者に成り代わって」つー意味ではな、戦場カメラマンてどんなに頑張って引っ張っても90年代に存在意義が終わってる、て思うのよ。

一応な、第二次世界大戦でもう既にガンカメラってフツーにあったけど、それって専門家が被弾率とか戦果とかを専門的に分析するためのモノであって、オレらみたいな「第三者に伝える」ためのモノではなかったじゃん。

けどな、湾岸戦争あたりから、アメリカが正しい攻撃目標だってことをオレらに宣伝するためにトマホークの映像を大々的に公開するようになったじゃん。正しかったかどうかは置いといて、効果抜群だったじゃん。オレな、これで戦場カメラマンが当事者に成り代わる役割はほぼ完全に終わった、と思ったのよ。


で今な、ミサイルどころか、ヘルメットにもボディアーマーにも、レーザーサイトなんかにも、まさに戦場の「当事者」自身のアイテムにフツーにカメラが付いてる時代じゃん。「第三者に伝える」ことが使命のニュースだってそういう映像を最優先するのは当然だし、一般人だってもうそういう映像にしか興味を示さないじゃん。

もちろんさ、自分は戦場カメラマンだっていう奴が別の切り口で、捉え方で、テーマで、当事者でも気づかないような視点から撮るのはいいよ、いいけどさ、やっぱりそういう映像のほとんどは弱くて、よっぽどのレベルに達していたとしても、悲しいかな、あんまり伝わらないのよ。


だからつくづく思うのよ、特に、銃口と標的の間に戦場カメラマンのカメラが入る隙間はもうほとんど残ってない、て。


Opening Scene - "CIVIL WAR" Alex Garland, St: Ben Salisbury & Geoff Barrow, US/UK 2024 

Cailee Spaeny as Jessie Collin, Kirsten Dunst as Lee Smith .
"CIVIL WAR" Alex Garland
A24 Films / Entertainment Film Distributors

さて、アレックス・ガーランド監督の映画「シビル・ウォー」を観た。

ちょっとだけ期待してた分、オレの中では近年稀にみる駄作となってしまった。


舞台は現代、内戦状態に陥ったアメリカ。

フィクションだが、最近の格差だ分断だ、わけわからん自警団が跋扈して混乱しまくり、陰謀論含めて誰が敵なのか見分けがつかん、てのは最近のアメリカを見てる限り「有り得るかも」と思えるので、まあ別にいい。


問題は主人公の二人。

一人は伝説の報道写真家、キルスティン・ダンスト演じるリー・スミス。もう一人は報道写真家を目指す女の子、ケイリー・スピーニー演じるジェシー・カレンである。

この二人が、リーとジェシーが暴動の現場で偶然出会い、マスコミ仲間といろんな体験をしながら共に戦火の中心地であるワシントンD.C.を目指し、取材お断りの大統領になんとか接触しよう、というストーリーだ。


あえて「報道写真家」と書いたけど、公式の解説でも映画の中でもリーはベテランの「戦場カメラマン」だし、駆け出しのジェシーは「リーのような戦場カメラマン」になることを目指している。じゃあなぜ「報道写真家」と書いたかというと、とてもじゃないが「戦場カメラマン」というシビアな括りでは大失敗、このままでは一般の観客が「戦場カメラマン」という肩書について誤解しそう、と思ったからだ。


まず、ベテランのはずのリー。気怠い雰囲気だったり溜息をつくことが戦場カメラマンだ、みたいな勘違いをしている。ジェシーを相手に過去を振り返ったりするにしても、それを必然性が感じられないスローモーションで演出したりするから、あれじゃあ単なる更年期障害にしか見えない。

そして、ビギナーのジェシー。いくらなんでもプロを目指してる人間が、ああいう現場を撮るためにFE2の一択で取材に挑むか? どこの写真学校で勉強したんだ。しかも水が貴重なはずの難民キャンプで屋外現像だ。パターソンの現像タンクなんて久々に見た。

それに、この二人の周りにいるマスコミ連中もドローンの一台くらいなぜ飛ばさない? その方が仲間の命を危険に晒さず、当事者である銃口側にとっても標的側にとっても邪魔にならず、かつ現場を俯瞰でしっかり撮影できるじゃないか。


要は、登場人物たちが肩書だけで、ぜんぜんプロに見えない。ジェシーはまだプロじゃないけども、せめて、せめてカメラはカメラバッグから出しておこうよ。いっつも仕舞いっぱなしなんだもん。観てるこっちがサービス精神で何度も「ジェシーちゃんはまだ新人だから」と納得しようと努力したけれど、途中で諦めた。でもそういうテクニカルなことだけを言ってるんではなく、百歩譲って「戦場カメラマンの人間性」みたいな深堀りに挑戦するとして、特に、ブティックのシーンでのリーとジェシーのやりとりには頭を抱えて、ゴメン、やってることが浅はかすぎて、吐き気がした。あんな演出はちょこっと写真をかじった奴のトリビアにすぎないよ。

そんな連中が銃口と標的の間に入って撮ろうというんだから、そりゃ敵も味方も関係なく当事者からマスゴミと言われても仕方がない。だから、名もなき狙撃手、正確には観測手が諦めたように言い放った言葉、そこだけはえらく共感できた。


  "Oh, I get it.  You're retarded."

「ああ、なるほど。お前バカなんだな。」


あれでは、リー・スミスのモデルとなった写真家リー・ミラーもホワイトハウスの芝生の陰で泣いている、と思う。


Lee Miller Archives - Official Site

Lee Miller Photo Archives - LIFE

Everything You Need to Know About Lee Miller - VOGUE

From the pages of Vogue to WWII battlefields... who was photographer Lee Miller? - National Geographic

Elizabeth "Lee" Miller 1907-1977. Saint-Malo, France 1944.
Photo by David E. Scherman 1916-1997 / LIFE Magazine

久しぶりに途中棄権しようかと思った映画だったし、アレックス・ガーランド監督って知らない監督だと完全に思い込んでたから、鑑賞後に過去作を調べてみて・・・ショック、そうか、思い出したぞ。


2015年の映画「エクス・マキナ」の監督じゃないか。なんていいタイトルなんだと期待して観たらガッカリしたこと、すっかり忘れてた。そう、オレにとってこの監督は、名前を忘れた頃にそれなりの話題作を出してくる監督なのだ。脚本だけだが映画「サンシャイン2057」もそう、コロナ禍で話題になった映画「28週後」なんかもそう、そうなんだよ。

ほぼ全ての作品で、登場人物たちは肩書や状況にそぐわない行動をする。それが納得できる話なのであればいいが、シリアスなテーマを選ぶわりにはいっつもリアリティがなく、なんか軽いんだよ、いろいろと。まあ、オレと性格が合わない監督なんだろうとは思ってるけど、要は、この監督が描く登場人物の行動に納得できたためしがほとんどない。


少なくとも映画「シビル・ウォー」については、特に!ラストの写真は、またもや安易なスローモーションでジェシーが悩んでる風な演出にしてるが、現場の一般人が何も考えずスマホで撮影している感覚と変わりなく、悪趣味なだけで、ガーランド監督には「戦場カメラマン」という肩書で歴史に名を遺す全ての報道写真家たちにマジで謝ってほしいと思うレベルであった。


オレがここまで酷評するって、珍しいことなんだからな、まったくもう。


Official Theatrical Trailer - "LEE" Ellen Kuras, Bs: Antony Penrose, St: Alexandre Desplat, UK 2024

Kate Winslet as Lee Miller.
"LEE" Ellen Kuras
Sky Cinema / StudioCanal

 "The personality of the photographer, his approach is really more important than his technical genius."

Lee Miller

   The New York Evening Post, 1932.

「技術的な才能よりも、写真家の人格や取り組み方が重要なんです。」

リー・ミラー

   ニューヨーク・イブニング・ポスト、1932年


ホントそうですよ、まったくもう。