American Pie


今回のミュージックビデオ、本当は、何処かの誰かが公式にYouTubeでアップするのを待っていた。


いや、正確には公式がアップしてくれているんだが、後述する諸事情から360pが限界という状況なのだ。

が、そろそろオリジナルからHD以上に焼き直したバージョンが出てもいい頃だろうと思っていたのである。

しかし、その気配は全くないし、今後も、恐らくは歌った本人が亡くなった後もしばらくは無理なようだ。


先日の大統領選挙で考えさせられることが多々あり、この曲を思い出すことが多かったので書こうと思う。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

そのミュージックビデオの曲は、マドンナの「アメリカン・パイ」という。


彼女が40代に入って最初に出した2000年のアルバム「ミュージック」に収録されている。

いろいろと不思議な曲で、例えば曲中の歌詞の一人称「I」は訳者によって「俺」だったり「私」だったりする。

余談だが、日本語は一人称に性別が存在する世界的にも非常に珍しい言語、ということもあるだろう。


先程、この曲はアルバム「ミュージック」に収録されていると書いた。


が、実は、本家の北米版のアルバム「ミュージック」には収録されていない曲なのだ。

世界的に大ヒットした曲にも関わらず、マドンナのベストアルバムからも除外されている。

更に、北米ではシングルすら発売されず、ラジオやテレビのリクエストだけで順位を伸ばしたのである。


何故、こうなったのだろうか。


American Pie - Don McLean, Mv: BBC Newsnight Archives, US 1971

上記のライブ映像は、近年になってBBCのアーカイブから発見された.
マクリーンが1972年に音楽番組「Sounds for Saturday」に出演した時のものである.

American Pie - Don McLean
United Artists Records


まず、この曲「アメリカン・パイ」には原曲がある。


アメリカの歌手ドン・マクリーンが1971年に発表して大ヒットした曲「アメリカン・パイ」だ。

「彼」が歌い、日本に入ってきた時、「I」を「俺」と和訳した名残りがマドンナ版まで尾を引いている。

数多ある歌詞の和訳サイトがコピペだけで済ませるだけのサイトが多い、という現状も関係していると思う。


しかし、この曲はそんなに単純な話では終わらないのである。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

マクリーン版、つまり原曲の「アメリカン・パイ」は優しいメロディーに反して歌詞は非常に難解だ。


英語のネイティブですら単語の並びの意図するところや歌詞全体の解釈に苦しむという。

歌というより語り弾きのようなスタイルで、様々に解釈可能な歌詞であることは、翻訳側には困った話だ。

少なくとも、1950~70年代の時代背景について把握しないと歌詞の本意を掴めないといわれている。


1971年に発表した曲なのにその20年も前に、1950年代まで遡らないと駄目なのかよ、とは思う。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

しかし、歌詞の最初の言葉が「A long long time ago...」(遠い遠い昔・・・)なのである。


途中に出てくる「The day the music died」(音楽が死んだ日)は1959年だったと思うが、日付は忘れた。

マクリーン版の歌詞については徹底的に研究しているサイトも多いので、興味があったら検索してみるといい。

大ヒットした曲だけに、世界中に様々な解釈と翻訳が存在する。


当時の夢の象徴であったシボレーを走らせると「干上がった堤防」に行き着く理由も見えてくるというものだ。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

マドンナ版の「アメリカン・パイ」はこんな感じである。


当時の彼女は30代から40代へ移行する中で、自分のスタイルを模索するような活動が多かった。

そんな中、音楽業は当たるが女優業は大根役者といわれた彼女が久々に映画で主演を張ることになった。

ジョン・シュレシンジャー監督の遺作となった、2000年公開のラブコメ映画「2番目に幸せなこと」である。


この映画の挿入歌として採用されたのが、マクリーン版「アメリカン・パイ」のカバー曲であった。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records


監督の意向も含めたカバーの内容は、作曲は原曲をほぼ踏襲し、歌詞は原曲を約半分程度にまで省略。


これを気に入ったマドンナは歌を担当、コーラスには恋人役を演じたルパート・エヴェレットも参加した。

仕上がりに満足したマクリーンはカバー曲を許可し、同時にミュージックビデオも制作された。

因みに、ミュージックビデオでも恋人役としてエヴェレットが出演している。


つまり、カバー曲であるマドンナ版は、版権が完全に映画「2番目に幸せなこと」側にあるのだ。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

北米でマドンナ版「アメリカン・パイ」が収録されたのは、映画「2番目に幸せなこと」のサントラのみ。


あのマドンナが再び女優に、しかも主演に挑戦、ということでラジオやテレビが頻繁に曲を流す。

しかし映画はヒットしなかったため、挿入歌であるこの曲がシングル・カットされることもなかった。

更にシュレシンジャー監督が脳梗塞で急逝したため、自動的に版権が映画会社側に固定されることになった。


そして、映画会社の配給契約が北米の内外、つまりアメリカの国内と国外で異なっていたのである。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

かくして、マクリーン版のカバー曲であるマドンナ版「アメリカン・パイ」はこのような状態となった。


・マドンナに歌ったりする使用権はあるが、売り上げに直結する版権は持っていない。

・版権は映画会社が所有し、且つその契約条項は北米内外で異なっている。

・翻訳の内容は各国の配給先に一任で、マドンナは英語→日本語→英語といった逆(再)翻訳を確認できない。


こうして、関係者全員にとって公式なのだが公式ではない、というような曖昧な扱いの曲になったのである。


American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

当時は普段、洋楽といえば輸入盤のCDを買っていた。


が、マドンナ版「アメリカン・パイ」を聴きたいがため、この時だけは国内(日本)盤のCDを買った。

映画はどうでもいい出来だったが、この曲は好きで、通勤中の車内などでもよく聴いていた。

また、アメリカ社会の現実を強烈な照明で炙り出したような演出のミュージックビデオもいい出来だと思った。


個人的には、40代のマドンナを代表する一曲でありミュージックビデオだと思っている。


American Pie - Madonna, Mv: Philipp Stölzl, US 2000

高画質でこそ真価を発揮するミュージックビデオだと思う.
YouTube以外では、違法ではあるが当時のDVDからリッピングした
720p程度をアップしている動画サイトはあるようだ.

American Pie -  "The Next Best Thing" or "Music" Madonna
Warner Bros. / Maverick Records

長くなったので歌詞は載せない、興味がある人は調べてもらいたい。


アメリカの大統領選挙はあらゆる意味で混迷を極めたものだった。

再び時代が変わろうとしていることは明らかで、アメリカ人に一言だけ言いたい。

聖書にある「他者の過ちを赦すなら、天もあなたの過ちをお赦しになるだろう」という言葉を忘れてはいけない。


赦す恵みを知り、寛容であれ。