腕男


そういやそうだった。

別の場所から来た男が待合室と呼ぶ、あの「赤い部屋」で、ローラと約束したんだった。
25年後にまた会いましょう、それまでは・・・(I'll see you again in 25 years, Meanwhile...)と。
指先を下へ向けたフィンガースナップは不吉な兆しへの警告、という噂もあった。

まあ夢の中での約束だから、現世で少しくらいズレてたって問題はないだろう。

"Twin Peaks" David Lynch
ABC television

最初のTVシリーズ(シーズン1と2、第1~30話)は、面白かった。

細野晴臣が影響を受けまくってアンビエント系に走るのも納得だった。
アルバム「MEDICINE COMPILATION from the Quiet Lodge」などは今でもよく聴いている。
「MEDICINE COMPILATION」と略称されることが多いが、肝心要は「from the Quiet Lodge」の方。

これは「赤い部屋」を経て辿り着く、善と悪の「White Lodge」と「Black Lodge」に因む。

"Twin Peaks: The Missing Pieces" David Lynch
CBS Home Entertainment

音楽的な余談は兎も角、映画はまあまあだった。

いくら流行りものとはいえ、登場人物のキャスティングが突拍子もなさすぎる。
邦題の「最期の7日間」もかなり的外れで、TV版の前後を行き来するような複雑な時間軸で構成されている。
唯一の救いは、いつかはローラも天に召されるんだろうな、という暗示のようなものがあったくらいだった。

後の未公開版「完全なる謎」の方が「謎」と言い切ってる分、かえって納得が出来た。

"Twin Peaks: The Return" (Season 3), David Lynch & Mark Frost
Showtime Networks

あれから25年、正確には26年が過ぎ、再びTVシリーズ(シーズン3、第31~48話)となった。

一番驚いたのは、映画では違和感ありまくりだったオカルティックな部分が逆にしっくりきていることだった。
CGの技術的進歩という意味ではない、むしろ教育テレビのCGかよとツッコミたくなるくらい稚拙なのに、だ。
HDになったテレビの画面は現代的なシュルレアリスム絵画の雰囲気すら醸し出している。

クーパーは片足を「赤い部屋」に突っ込んだままのような、つまり、ボケているようだった。

"Twin Peaks: The Return" (Season 3), David Lynch & Mark Frost
Showtime Networks

これらをどう評価するかは難しい。

第1~30話と繋がってないではないかという人もいるが、自分は充分すぎるほど繋がっていると感じた。
大好きだったララ・フリンが出演しなかったことは大いに残念だが、作品の欠点にはなっていない。
辻褄や整合性を求めるような話ではなく、象徴化された暗喩をゆっくりと愉しむのが嗜みというものだ。

俺は「腕」だと言っていた男は、こうも言っていたじゃないか。

The Man from Another Place (Michael J. Anderson)
 When you see me again... it won't be me.

別の場所から来た男 (マイケル・J・アンダーソン)
 次に会うときの俺は・・・俺ではない。

リンチとチェリーパイが大好きな人には、コーヒーと共に強くお勧めしたい。