続編


ブログを書くようになってから、いつも困っていることがある。

こんな世界があったらと想像してみて欲しい (他意はなく、あくまでも例えです)。
中華国、朝鮮国、大韓国、日本国が集まった「アジア連合国」という国があったとする。
首相は各国から平等に選出されるが、代々続く血統が残っているという理由で首都は日本国にある。

外交はなんとか「連合国」で通しているものの、当然、内政は各国の対立が酷くてガタガタである。


Lust for Life - "Lust for Life " Iggy Pop
RCA Records

つまりそれが現世のイギリスで、イギリスの音楽には地政学がある、と以前にも書いた覚えがある。

イングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドから成り、州や県ではなく、国なのだ。
ただし、対外的には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」ということで通している。
本当は大英帝国の政治なんかどうでもいいんだ、勝手にやってればいい。

しかし、こういった事情が映画や音楽にまで絡んでくることが多いからイギリスは困るのだ。


Born Slippy: NUXX - Underworld
Junior Boy's Own /  Wax Trax! Records

Mark Renton (Ewan McGregor) :
 Choose life.
 Choose a job.
 Choose a career.
 Choose a family.
 Choose a fucking big television.
 Choose washing machines, cars, compact disc players and electrical tin openers.

マーク・レントン (ユアン・マクレガー)
 人生を選べ。
 仕事を選べ。
 経歴を選べ。
 家族を選べ。
 馬鹿デカいテレビを選べ。
 洗濯機、車、CDプレーヤー、そして電動缶切りを選べ。

 Choose good health, low cholesterol, and dental insurance.
 Choose fixed interest mortgage repayments.
 Choose a starter home.
 Choose your friends.

 健康、低脂肪、そして歯科保険を選べ。
 固定金利住宅ローンを選べ。
 最初の我が家を選べ。
 お前の友達を選べ。

 Choose leisurewear and matching luggage.
 Choose a three-piece suit on hire purchase in a range of fucking fabrics.
 Choose DIY and wondering who the fuck you are on a sunday morning.
 Choose sitting on that couch watching mind-numbing, spirit-crushing game shows, stuffing fucking junk food into your mouth.

 レジャーウェアとお揃いのカバンを選べ。
 クソ高い生地であつらえた三つ揃えのスーツを選べ。
 日曜大工なんかやってるような日曜日の朝の間抜けな自分を選べ。
 ソファに座って、精神がぶっ壊れそうなどうでもいい番組を観て、クソみたいなジャンク・フードを頬張る生活を選べ。
 ※画面のクレジットと共に登場する、主人公マークの親友たち.
シック・ボーイ(オタク)こと、サイモン・ウィリアムズ(ジョニー・リー・ミラー).
フランク(狂人)こと、フランシス・ベグビー(ロバート・カーライル).
冒頭で一緒に逃げていたスパッド(お人好し)こと、ダニエル・マーフィー(ユエン・ブレムナー).
トミー(平凡)こと、トーマス・マッケンジー(ケヴィン・マクキッド).

 Choose rotting away at the end of it all, pissing your last in a miserable home, nothing more than an embarrassment to the selfish, fucked up brats you spawned to replace yourselves.
 Choose your future.
 Choose life.

 ボロボロに老いて、惨めな我が家で最後の小便をして、出来損ないのガキどもにもうとまれる、そんな豊かな人生を選べ。
 自分の将来を選べ。
 人生を選べ。

 But why would I want to do a thing like that?

 でも、なんで俺はそんなことがしたいんだ?

 I chose not to choose life.
 I chose something else.
 And the reasons?

 俺は人生を選ばないことを選ぶことにした。
 俺は他のことを選んだ。
 その理由は?

 There are no reasons.
 Who needs reasons... when you've got heroin?

 理由なんかない。
 ヘロインが手に入ったんだ・・・理由なんていらないだろ?


"Trainspotting" Danny Boyle
PolyGram Filmed Entertainment / Miramax Films
 

いくら役柄とはいえ、心底、よくまあジェダイの騎士を輩出できたもんだと思う。

そう思うくらい最低のクズどもを描いた映画「トレインスポッティング」は、スコットランドが舞台だ。
サッチャリズムによって首都と外政は及第点、しかし地方と内政は赤点どころか壊滅状態という時代背景。
映画「ブラス!」も全く同じ設定で、失業にストライキ、コミュニティの崩壊と、惨憺たる舞台だった。

ただ、トレスポのクズどもは若かったから酷さのレベルが違う、目を覆いたくなる有様だった。


Lust for Life (Ver. The Prodigy Remix) for "T2" - Iggy Pop
Virgin Records / Capitol Records

このブログでは映画や音楽のリンクを貼る時に、最後に国名とリリース年度を入れている。

「どこの国ですか?」と聞かれて、少なくとも自分だったら「東京です」ではなく「日本です」と答える。
イギリスのアーティストは結構な確率で「イングランドだよ」とか「スコットランドです」と答えるのだ。
思想は宗派が違い、政治は歴史がぶつかり、生活は経済が一緒だから仕方なく、といった感じである。

こういったイギリス人の強烈な愛国心(?)は、続編「T2 トレインスポッティング」でも自虐的に出てくる。

男どもは中年になってもクズのまま(ヒロインはまともな大人になっていた、流石)だ。
で、男どもが盗んできた大量のクレジットカードが、ある理由でどれもこれも暗証番号が同じなのである。
そんなことあるワケねえだろと苦笑いしつつ、スコットランド人ならあり得るかも、というシーンだった。

そこまで拘るならイギリスって書くのは止めようか、とも思うが、結局いつもUKと書いている。


Slow Slippy for "T2"- "Long Slow Slippy / Eventually But" Underworld
Underworldlive.com

Veronika Kovach (Anjela Nedyalkova) :
 What's 'Choose life'?

ベロニカ・コバック (アンジェラ・ネディヤルコバ)
 「人生を選べ」って何なの?
※最初はサイモンの恋人だったが、後にマークと付き合う。

[Wham!'s music video 'Wake Me Up Before You Go-Go' in 1984]
[ワム!のミュージックビデオ「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」、1984年]

Mark Renton (Ewan McGregor) :
 What?

マーク・レントン (ユアン・マクレガー)
 なんだって?

Veronika :
 'Choose life'.
 Simon says it sometimes.
 He says 'Choose life, Veronika!'

ベロニカ:
 「人生を選べ」よ。
 サイモンがたまに言うじゃない。
 人生を選べ、ベロニカ!って。

Mark :
 Ha-ha!
 'Choose life'... 'Choose life' was a well meaning slogan from a 1980's anti-drug campaign, and we used to add things to it, so I might say for example, choose... designer lingerie, in the vain hope of kicking some life back into a dead relationship.

マーク:
 はは!
 「人生を選べ」か・・・「人生を選べ」ってのは、80年代の麻薬撲滅運動でよく使われた標語だったんだ、それに適当な言葉を繋げて、そうだな例えば俺ならこんな風に・・・高級な下着を、終わった恋愛関係を取り返す儚い希望のために選べ。

Veronika :
 Ah-Haha.

ベロニカ:
 あはは。

Mark :
 Choose handbags, choose high-heeled shoes, cashmere and silk, to make yourself feel what passes for happy.
 Choose an iPhone made in China by a woman who jumped out of a window and stick it in the pocket of your jacket fresh from a South-Asian Firetrap.

マーク:
 ハンドバックを選べ、ハイヒールを選べ、カシミア、シルク、幸せみたいなもんを感じるために。
 窓から身投げして過労死した女が作った中国製のアイフォンを選べ、それを東南アジアの劣悪な工場で製造されたジャケットのポケットに突っ込め。

 Choose Facebook, Twitter, Snapchat, Instagram and a thousand others ways to spew your bile across people you've never met.
 Choose updating your profile, tell the world what you had for breakfast and hope that someone, somewhere cares.

 フェイスブック、ツイッター、スナップチャット、インスタグラム、会ったこともない知らない奴らに愚痴るために何千回でも選べ。
 どこかの誰かが見てくれることを期待して、プロフィールを書き換えて、朝飯で何を食ったか更新することを選べ。

 Choose looking up old flames, desperate to believe that you don't look as bad as they do.
 Choose live-blogging, from your first wank 'til your last breath; human interaction reduced to nothing more than data.

 過去の恋人を検索して、自分はアイツよりまだマシだと信じ切ることを選べ。
 初めてのオナニーから死ぬ瞬間まで実況中継することを選べ、もう人間関係なんて単なるデータ交換でしかないんだ。

 Choose ten things you never knew about celebrities who've had surgery.
 Choose screaming about abortion.
 Choose rape jokes, slut-shaming, revenge porn and an endless tide of depressing misogyny.
 Choose 9/11 never happened, and if it did, it was the Jews.

 整形手術した有名人を検索してどうでもいい秘密を10個選べ。
 中絶について声高に大騒ぎすることを選べ。
 レイプのジョーク、フェミニストの弾圧、リベンジポルノ、うんざりするくらい女性蔑視を選べ。
 全米同時多発テロはなかった、あったと言うならユダヤ人の陰謀だって説を選べ。

 Choose a zero-hour contract and a two-hour journey to work.
 And choose the same for your kids, only worse, and maybe tell yourself that it's better that they never happened.
 And then sit back and smother the pain with an unknown dose of an unknown drug made in somebody's fucking kitchen.

 非正規雇用や2時間以上の長距離通勤を選べ。
 もちろんガキたちだって同じだ、労働条件はどんどん酷くなって、産まない方がよかったと後悔することを選べ。
 そしてゆったり座って、どこの誰だか知らないが汚い台所で合成された成分不明のドラッグで傷を癒すことを選べ。

 Choose unfulfilled promise and wishing you'd done it all differently.
 Choose never learning from your own mistakes.
 Choose watching history repeat itself.

 実現しなかった夢を、もっと別のやり方があったんじゃないかと嘆くことを選べ。
 過去の失敗からも学ばないってことを選べ。
 歴史が繰り返す様子を眺めるだけってことを選べ。

 Choose the slow reconciliation towards what you can get, rather than what you always hoped for.
 Settle for less and keep a brave face on it.

 いつも望んでいるモノじゃなく、今手にあるモノで妥協することを選べ。
 不満でも顔には出さず、見栄を張るってことを選べ。

 [A view of Diane at work.]
 [仕事中のダイアン]
※ダイアン・コルストン(ケリー・マクドナルド).
20年前の第一作目でマークと付き合っていた女の子も、今や立派な弁護士だ.

 Choose disappointment and choose losing the ones you love, then as they fall from view, a piece of you dies with them until you can see that one day in the future, piece by piece, they will all be gone and there'll be nothing left of you to call alive or dead.

 諦めることを選べ、大切な人を失うことを選べ・・・どんどん視界から消えていくように、いつかはお前だって誰かと一緒に少しづつ消えて、生き死にに関係なく何も残らないんだ。

 Choose your future, Veronika.
 Choose life.

 将来を選べ、ベロニカ。
 人生を選べ。

Veronika :
 ......

ベロニカ:
 ・・・・・・

Mark :
 ...... Anyway, it amused us at the time.

マーク:
 ・・・・・・とにかく、俺たちはそうやって楽しんでたんだ。


&
Silk (Official Audio) - Wolf Alice, UK 2017
"T2 Trainspotting" Danny Boyle
Sony Pictures

賛否あったが、続編があって良かったんだと思う。

昔も今も、そしてこの先も、居場所がないというのは本当に辛いことだ。
それでも、特に、スパッドだけでも最後にああいう方向性の示唆があって、やっと安心できた気がする。
そして、死んでない奴は、生きていくしかない、それだけでも続編の甲斐はあったんだと思う。

少しホッとしたせいか、身につまされたからか・・・今回の記事は冗長になった。