少し心配になったので補足しておきます。
前回、クレオパトラについて「ギリシャ彫刻をベースにした顔立ち」だったんじゃないか、と書きました。
美男美女を形容する時に使われる「ギリシャ彫刻」という表現、どんな印象を持つでしょうか。
これ、テレビなんかでもよく勘違いされて紹介されることがあります。
実は、本物のギリシャ彫刻というものは、ほとんど現存していません。
例えば、オリンピックのルーツみたいな説明の時に、円盤投げの彫刻などが大抵は大理石の像で紹介されます。
ギリシャ彫刻は大理石だろ!と思ってる方が多いようなんですが、これが間違いなんです。
完全に間違ってる、とも言えないんですが、そこらへんをなるべく整理して簡単に説明してみます。
まず、ギリシャ彫刻、古代ギリシャ時代の彫刻についてです。
【ギリシャ彫刻】
・基本、全裸像。
・青銅(ブロンズ)製が一般的で、特に、立像が大理石で作られることは稀だった。
・彩色されているものが多かった。ただし、現存するものは野ざらしなどの理由で色は剥げ落ちている。
・初期は単純な立ちポーズ程度しかなく、後期になるにつれてポーズのバリエーションが増える。
・顔立ちは素朴で、表情は微笑(いわゆる、アルカイック・スマイル)が多い。
・・・で、これを破壊しまくったのが、ローマ人たちです。
侵略、占領、植民地化の繰り返しで、青銅はどんどん武器へと鋳造し直されてしまいました。
その為、本当にギリシャ時代のオリジナルの青銅製の立像というのは、ほぼ全滅してしまったのです。
しかし、ローマ人にもギリシャ彫刻が見事な芸術品だな~という美意識はあったので、コピーしまくります。
今、ギリシャ彫刻として鑑賞している彫刻は、そのほとんどがローマ人によって複製された彫刻なのです。
【ローマ彫刻】
・基本、何か着てる(なので、オリジナルは全裸の可能性もある)。
・大理石製が一般的で、青銅が使われることはほとんどなかった。
・大理石は青銅よりも細かい表現が出来る。しかし脆いので、パーツを組み合わせて作ることが多い。
・モチーフに実在した人物が増える。カエサルのような権力者、元老院に名を連ねるような著名人など。
・実在した人物を讃えるため、威厳のあるポーズや風格のある表情であることが多い。
・・・ですので「グリーク(ギリシャ)・オリジナル」と「ローマン・コピー」の差が常に付きまとうのです。
この問題については、ローマ人たちがオリジナルは「こうだった」と書き残してくれています。
なので学者さんたちも「そうだったんだろう」と、そもそも紀元前というだけで貴重なので仕方がないのです。
前述の円盤投げはオリジナルの青銅製を複製したローマンコピーのみ現存し、やはり貴重には違いないのです。
最後に、ギリシャ彫刻は大理石だろ!という印象を世間に決定付けた「ミロのビーナス」についてです。
【判明していること】
・美の女神アフロディーテ(アプロディーテ)、または海の女神アンフィトリテ(アムピトリーテ)の像。
・放射線年代測定などの科学的判定では、古代ギリシャのヘレニズム期の作。
・発見された際、オリジナルの腕の残骸はあったが残骸すぎたため廃棄、行方不明に。
・ルーブル美術館に搬入中、職員がオリジナルの台座を他の彫刻の台座と勘違いして廃棄、行方不明に。
【不思議なこと】
・古代ギリシャの立像でありながら、大理石の大作。
・ローマ時代に入ってから多様されたパーツ組み立て方式が既に採用されている。
・古代ギリシャの女神像でありながら、アルカイック・スマイルがない(ほぼ無表情)。
・全裸でもなく着衣でもなく、半裸。
・・・美人とは罪なものですな。
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ということで、前回の「ギリシャ彫刻をベースにした顔立ち」とは、本来のギリシャ彫刻のことです。
ローマン・コピーのような端正な顔立ちではなく、ギリシャ彫刻のような素朴さのある顔立ちだったのでは。
ただし、エジプト壁画のようなメイクをしていたら、キリリとしたキツめの風貌に見えていたかもしれません。
悪しからず、宜しくお願い申し上げます。