正論


Host:
 And our final guest today is Nick Naylor.
 Mr. Naylor is the vice president of The Academy of Tobacco Studies.
 Now, they are the tobacco industry's main lobby in Washington, D.C. and Mr. Naylor is their chief spokesman.
司会者:
 そして本日最後のゲストはニック・ネイラーさんです。
 ネイラーさんはタバコ研究所の部長職に就かれております。
 現在、ワシントンDCにおいて、この研究所はタバコ産業界を代表する圧力団体となっていて、ネイラーさんはそこの広報部長にも就かれております。

Audience:
 Murmur...
観客:
 ざわざわ・・・

《 President / Mothers Against Teen Smoking 》
《 会長 / 十代の喫煙に反対する母の会 》

《 Chairwoman / The Lung Association 》
《 委員長 / 肺炎協会 》

《 Top Aide / Health and Human Services 》
《 主任補佐官 / 保健福祉省 》※a
※a 正式にはU.S. Department of Health and Human Services、日本の厚生労働省に相当。

《 Cancer Boy 》
《 ガンの少年 》

《 Me 》
《 オレ 》

Audience:
 Booing!
観客:
 ブーブー!

Nick Naylor (Aaron Eckhart)
 [ ...Few people on this planet know what it is to be truly despised.
 Can you blame them?
 I earn a living fronting an organization that kills 1,200 human beings a day.
 1,200 people.
 We're talking two jumbojet plane loads of men, women, and children.
 I mean, there's Attila(Death Toll: 5,000,000), Genghis(Death Toll: 30,000,000), and me(Death Toll: 100,000,000 and up), Nick Naylor.
 The face of cigarettes, the Colonel Sanders of nicotine.
ニック・ネイラー (アーロン・エッカート)
 [・・・この惑星で、心底軽蔑されるってのがどういうことなのか知っている人間は少ない。
 それを責めるのは酷じゃないか?
 オレは一日で1200人を殺している組織の矢面に立つことで生計を立ててるんだ。
 1200人。
 例えるならジャンボジェット2機分に相当する、男や女、子供で満席の。
 つまり、アッティラ王(死者 500万人)、チンギス・ハーン(死者 3000万人)、
 そしてオレ(死者 1億人以上)、ニック・ネイラーってわけだ。
 タバコ産業の顔、ニコチン界のカーネル・サンダースだ。

Naylor:
 This is where I work, the Academy of Tobacco Studies.
 It was established by seven gentlemen you may recognize from C-SPAN.
 These guys realized quick if they were going to claim that cigarettes were not addictive, they better have proof.
 This is the man they rely on, Erhardt Von Grupten Mundt.
 They found him in Germany.
 I won't go into the details.
 He's been testing the link between nicotine and lung cancer for 30 years and hasn't found any conclusive results.
 The man's a genius.
 He could disprove gravity.
ネイラー:
 これが俺の職場、タバコ研究所だ。
 C-SPANで有名になった7人の役員によって設立された。※b
 役員たちは気付いたのさ、タバコに依存性がないって主張するなら、もっとマシな証拠が必要だと。
 役員たちが頼りにする男、エアハルト・フォン・グラプテン・ムント博士。
 ドイツから引っ張ってきた。
 細かいことはどうでもいいか。
 彼は三十年間、ニコチンと肺ガンの関連性を研究して、決定的な証拠を発見できなかった。
 天才だぜ。
 重力だってひっくり返せるぞ。
※b C-SPANはCNNなんかと同じニュース専門チャンネル。よく法廷の生中継や公聴会の様子を流している。

Naylor:
 Then we've got our sharks.
 We draft them out of Ivy League law schools and give them time-shares and sports cars.
 It's just like a John Grisham novel, you know, without all the espionage.
 Most importantly, we've got spin control.
 That's where I come in.
 I get paid to talk.
 I don't have an MD or law degree.
 I have a bachelor's in kicking ass and taking names.
 You know that guy who can pick up any girl?
 I'm him, on crack... ]
ネイラー:
 彼らはオレ達が囲ってる強欲な弁護団。※c
 アイビーリーグの法律学校から釣り上げて、別荘の費用やスポーツカーが餌だ。
 ジョン・グリシャムの小説みたいだが、まあ、スパイ活動だけはやってない。※d
 一番重要なのは、印象操作ができるかどうかだ。※e
 オレが関わる仕事でもある。
 話術で対価を得るんだ。
 医学の学位も法律の学位も持っていないけどな。
 相手を驚かせて名を上げていけば、それがオレの学位になる。
 誰があの子を口説けるか?
 それがオレだ、決めてやるぜ・・・]

※c あらゆる法的手段を駆使して莫大な報酬を得る、サメ(sharks)のように貪欲な奴ら、というスラング。
なお、アイビーリーグは体育会系的な括りから揶揄されることも多い名門私立大学の総称。
※d ジョン・グリシャムの小説を読んだことはなくても、彼が原作の映画を観たことがある人は多いと思う。
※e 偏り(spin)を制御(control)することから、偏向報道の意味合いでも使われるスラング。

&
The MOD squad
"Thank You for Smoking" Jason Reitman
Fox Searchlight Pictures

主人公ネイラーの息抜きは週に一度、異業種の広報仲間と共にする夕食会である。

ポリー・ベイリー(マリア・ベロ)は酒造業界、ボビー・ジェイ・ブリス(デヴィッド・ケックナー)は銃器業界。
世論からの逆風が常に吹き荒れる中、日々戦い続ける優秀な広報マンたちがジョークを交えて本音で話し合う。
彼らは自分たちのことを「死の商人部隊」(Merchants of Death-Squad, MOD squad)と呼んでいた。

死んだり周りに迷惑をかける可能性があるというなら、飛行機や車にもドクロマークを描くべきでしょう?

Girl (Courtney Taylor Burness)
 My mommy says that cigarettes kill.
女の子 (コートニー・テイラー・バーネス)
 ママがタバコは人を殺すって言ってたもん。

Naylor:
 Really?
 Now, is your mommy a doctor?
ネイラー:
 ホント?
 じゃあ、ママはお医者さんかな?

Girl:
 No.
女の子:
 ううん。

Naylor:
 A scientific researcher... of some kind?
ネイラー:
 何かを・・・研究してる科学者かな?

Girl:
 No...
女の子:
 ううん・・・。

Naylor:
 Well, she doesn't exactly sound like a credible expert, now, does she?
ネイラー:
 そうか、ママが専門家とは思えないんだけど、それで結局、ママは何やってる人なの?

Girl:
 ......
女の子:
 ・・・・・・。

臆するな、お嬢ちゃん。

学校の勉強では1+1=2と習うかもしれない。
ところが、社会に出ると3だったり4だったり、マイナスだったりすることも普通にあるんだ。
本当の答えなんか何処にもなくて、解く必要もなし、もっと簡単、与えられて選んだ答えを信じればいいだけ。

大人の世界は、勝てば官軍、論破すれば正論、屁理屈がまかり通る、冗談みたいな世界なんだよ。